メニュー 健康に良い油の摂り方3 <<
第21回 マーガリンなどのトランス型脂肪酸
>> 血糖値を上げ.....質だけ?さて、今回油の話の最終回はちょっとタイトルを変えてみました。
トランス型脂肪酸、最近よく耳にする言葉ですよね。どうやら人工的な油に含まれていて身体に良くないらしいと言う雰囲気は伝わって来るものの、いまひとつピンとこないという方が多いのではないでしょうか。
TFA(Trans-unsaturated Fatty Acids)と略されることもあるトランス型脂肪酸ですが、左の英語名を見て頂いてお分かりの通り、正式にはトランス型不飽和脂肪酸なのです。つまり、健康に悪いとされる飽和脂肪酸にトランス型は存在しません。その理由は構造を見て頂ければわかります。以前ご説明した通り、不飽和脂肪酸はこの図のように二重結合が存在していて、二重結合になっている炭素には各々一個ずつしか水素が付いていません。
これは平面的に書かれた図ですが、これを立体的に考えて頂くと、もう一つの可能性が出てきますね。このようなものです。
二重結合が存在するため、この二つは見る角度をどのように変えても同じにはなりません。実際の分子構造では、上のcis-型(しすがた)不飽和脂肪酸はこの二重結合の部分で折れ曲がりますが、下のtrans-型(とらんすがた)不飽和脂肪酸は直線状の構造を取ります。
自然に存在する不飽和脂肪酸はほとんどがシス型脂肪酸です。一部の健康サイトなどではトランス型脂肪酸は自然に存在しないプラスチックのようなものだと表現しているようですが、これは間違いです。自然にもトランス型脂肪酸は存在します。特に反芻動物の肉や乳には1〜5%の割合でトランス型脂肪酸が含まれています。牛乳やバターなどですね。
一方、植物油や魚油を半固形にするために水素添加と言う技術を使ってマーガリンやショートニング、ファットスプレッドなどを作るわけですが、この作業の際に10%程度の脂肪酸がトランス型に変化します。バターなどに含まれるものの数倍の量です。このトランス型に変化したものの中には自然に存在するのと同じものもあれば自然には存在しないものもあります。
標準的な栄養分析ではいずれも家庭用のマーガリンで約9.2%、ファットスプレッドで約8.3%、ショートニングで約8.1%のトランス型脂肪酸が含まれていることになっているが、分析によっては15%内外の数値が出ている場合もあるようですね。
実際にトランス型脂肪酸がどの程度身体に悪いのかはまだ十分に検討されていないようですが、WHO勧告に従うなら摂取カロリーの1%以内になるようにすればいいでしょう。つまり一日の摂取カロリーが1800kcalだとして、18kcal以内であればいいことになります。バターの場合多くても5%までですので一日に50グラムぐらい食べても大丈夫だということになります。10%のマーガリンだとその半分ですね。日本人の食生活ではそこまで多くの物は摂らないでしょうから、あまり神経質になることはないと思います。
むしろ気にしたほうが良いのは「植物性と言う欺瞞」の部分です。前にも説明した通り一口に植物性と言ってもその成分はまちまちです。そしてマーガリンなどの植物性油脂を原料にした加工油脂はすでにもう植物性油脂とは言い難くなっていると思います。
もちろん食品衛生法に則って造られた加工食品ですから食べて害があるとかいう問題ではなく、植物性としての効果を期待しないほうがいいと言うだけの話なのです。カロリーは油脂である以上バターやラードと同じ、人工的に飽和させた脂肪酸を含んでいるから植物性油脂としての効果は期待できないということを承知した上で、味の好みや価格などのアドバンテージを求めてマーガリン類をお使いになる分には個人の選択の範囲だと思います。
そしてもう一つ。トランス型脂肪酸がすっかり悪者になったのでトランスフリーのファットスプレッドなどがアメリカあたりから流行してきているようです。しかし、これもちょっと注意したほうが良いでしょう。そもそもマーガリンがなぜ生まれたかと言うと、もともと安価で大量に得られる液体の油をバターやラードのように使い勝手の良い半固体にしたいと言う要求からなのです。
そこで水素添加と言う技術を使って、油を液体にとどめている不飽和脂肪酸を飽和させてしまうと言う技術が開発されました。100%飽和してしまうと、これはもう手におえないくらい固くなるので部分的な水素添加にとどめているわけですが、そこにトランス型の生まれる隙間が生まれたと言うわけです。では、トランスフリーのマーガリンなどを作るにはどうしたらいいのかと言うと、バターと同じぐらい飽和脂肪酸が多くなるように、もともと飽和脂肪酸の多い油脂を混合してやればいいことになります。
例えば大豆油、おなじみの液体油ですが飽和脂肪酸は油脂重量の約15%です。これを原料にトランスフリーのマーガリンを造るとしましょう。マーガリンはバターの代用品ですね。大豆油に対してバターの場合約50%が飽和脂肪酸になります。ということで50%より飽和脂肪酸の多い油を混ぜてやればいいことになります。しかし、植物性油か反芻動物以外の動物性油でないとトランス型脂肪酸が混じりこんできます。しかもラードですら40%程度しか飽和していません。実際ラードの方がバターよりも柔らかいですよね。
そこで登場するのがココナツ油(ココナツオイル)とヤシ核油(パームカーネルオイル)です。ココナツの実やアブラヤシの種から採れる油です。これは植物性でありながら飽和脂肪酸の量が80%内外と、ラードの倍ぐらい飽和しているのです。と言うことは、ココナツ油と大豆油を半々で混ぜてやればバターと似たような硬さでトランスフリー、しかも純植物性のマーガリンができると言う寸法です。
しかし注意して下さい。バターと同じぐらいの固さにする基準として用いたのは飽和脂肪酸の量でした。つまり、純植物性でありながら100%動物性のバターと同じだけ「体に悪い飽和脂肪酸」が含まれているということなのです。植物性の物を積極的に摂るのは決して悪い事ではありません。しかし、植物性と言う言葉だけに騙されて、植物性に期待する効果が得られないのでは悲しいですよね。なお、参考までに示しますがチョコレートでおなじみのカカオバターも60%程度が飽和脂肪酸、しかも残りの40%のうち32%程度が健康によいとされるオレイン酸ですが、これを原料に使ったのでは値段的にぜんぜんあわないものができてしまうのです。
そもそもパンに塗るマーガリンやバター。それは固形物じゃないと具合が悪いのでしょうか。もうかなりおなじみになってきていると思うのですが、オリーブオイルをパンに塗って食べる、これも美味しいですよ。オリーブオイルと言っても多種多様ですが、主に北イタリアの方で採れるタッジャスカ種の完熟オリーブから絞ったオイルなんかは青臭さがなくて甘みのあるオイルで、パンには最適だと思います。
さて、書きたかったオリーブオイルソムリエらしいコメントでこの回を締め切って、次回からは再び糖尿の話に戻りましょう。
次章:血糖値を上げるのは本当に糖質だけ?
ツイート
改版 | 内容 | 日付 |
△0 | 初版公開 | 2013-12-12 |